冬の朝、諏訪幼稚園の園庭が真っ白な雪の世界へと変わる。
今年二度目の大雪。静寂のなかに、子どもたちの歓声が響く。
「雪の女王様が夜の間にやってきたんだよ!」
ひとりの子が目を輝かせながら叫ぶ。息を吐くと白く曇り、その言葉がまるで魔法のように空気に溶けていく。
「見て!あそこに富士山ができた!」
教室の窓ガラスにできた霜の模様を指さして、別の子が言う。
「きっと、秘密の隠れ家に続く地図だよ!」
さも当然のように言うので、大人のほうがむしろ納得してしまう。
園庭のあちこちでは、子どもたちの手によって新たな世界が生まれていた。
雪の王国、ドラゴンの住む洞窟、見えないけれど確かに存在する魔法の扉——すべては彼らの想像力次第だ。
そんな彼らを見守る先生たちの表情も、どこか柔らかい。
結局のところ、大人というものは、子どもがつくる世界にほんの少し入り込むだけで、忘れかけていた何かを思い出してしまうのだ。
雪が降るたび、諏訪幼稚園はいつもの園庭を超えて、無限に広がるキャンバスに変わる。
そこには、子どもたちの創造力、協力、そして“今”を生きる力が詰まっている。
彼らが描く物語は、決して消えない足跡として、雪の上に刻まれていくのだ。
雪というのは不思議なものだ。降ってしまえば交通機関は乱れ、大人はつい溜息をつく。
でも、子どもたちにとっては、ただの水分を含んだ氷の粒が、世界をまるごと塗り替える魔法になる。
大人の僕には、雪はただの冷たいものだけれど、彼らにとっては王国の鍵だったり、誰かを救うための手がかりだったりする。